公式ブログに唐突に掲載されたショート・ショート。
赤々と燃え立つ焚き火が、コンコーディアの平原に三つの影を投げかけていた。最も長く斜めに延びた影は、この夜半にもマンダロア鋼の鎧を身にまとい、表面のへこみや擦り傷に炎が深い陰影を揺らめかせていた。
他の二つの影は訓練用の装備だった。寸足らずの鎧から腕や脛が突き出し、この二人が未だ成長途中にあることを伺わせていた。
ガルロンは彼の双子の娘達を焚き火越しに見やった。
タィンにマリ、彼女たちはこの日の狩りも良くやった。待つ間に苛立つこともなく、武器や装備をうまく扱った。戻ったら彼女らの母親に、良き戦士に育っていると伝えてやろう、まるきりかつての彼女のようだと。
タィンは訝しげに眉をひそめて炎を見つめていた。彼と目があったとき彼女は尋ねた。
「こんな明るい火を焚いていいの?うんと遠くから誰かに見つかっちゃうかも、そうでしょ?」
ガルロンは娘の用心深さに微笑みを浮かべた。
「その通りだ。だがこの荒れ地では野生の捕食者が最も危ない。荒れ地で火を見ることは稀だから連中は火を恐れる。いざ寝ようとするときに連中の鼻先につっつかれないよう、明るい炎を燃やし続けることだ」
彼はそういってカチカチと歯を鳴らして見せ、娘達は装備を地面に降ろしながらくすくす笑った。
マリは彼女の寝袋を地面に広げるやいなや、いつもの通り「お話しして!」とせがんだ。
ガルロンがその要求について考え込む間も、軽やかなそよ風が平原の草を撫で微かな音を立てていた。もちろん、彼に娘の望みを拒否するチャンスなど有りそうになかった。
「もうお話をせがむような年じゃないとは思わないか?」
「だって年を取った昔話でしょ」とマリは答えた。
「あたし達も年を取ったんだから、いいじゃない?」
「うーむ、昔話か」
ガルロンは傷ついたフリをして見せ、数秒後に再び笑みを浮かべた。
「それなら新しい話をしないといけないな」というと彼は頬を掻いた。
「シェイ・ヴィズラのことは知ってるな?」
二つの頭が同時に頷き、彼女らの興奮を示すように影が大きく揺れた。
「みんな知ってる!ジェダイ・テンプルを吹っ飛ばしたんだから!」
「大きな仕事をやってのけたのは確かだな。シェイはテンプルの堅い護りに忍び込み、内側から主力部隊を呼び込んだ。彼女一人で何十人もの衛兵を片付けた。いつも一人で戦うのが好きだったんだ、知ってるかな?」
「いつもじゃないわ!」とティンは断固として彼の誤りを正した。
「いつも兄さんと一緒に戦ってたのよ」
「だけどジェダイに殺されちゃった」とマリが厳粛な面持ちで付け加えた。
「そうだ。それでシェイは随分と長い間ジェダイを恨んでいたな。多分そのせいで、ジェダイ・テンプルへの攻撃に真っ先に手を上げたんだろう。それでだ、和平協定が結ばれてからすぐ……」
焚き火のパチパチと鳴る音をかき消さんばかりの不満の声が上がった。
「その協定の話も全部知ってる」とティンは言った。
「その話は飛ばして」
ガルロンは降伏の印に両手を挙げた。
「専門家お二方に話をしていることを忘れていたな。俺が話しなきゃならん事はもうほとんど無さそうだ」
娘達二人の目が誇らしげに輝くのを、彼は見たように思った。
マリはまだ興味があるようだった。
「シェイはもう大分年を取ってるはずよね。今でも闘ってるの?」
「年老いたマンダロリアンを大勢見たことがあるかな?無いだろう?」
二人の娘は共に首を振った。
「本当に年老いるまで生きているには、本当にタフでないといけない。だから年寄りのマンドゥを見かけたとしたら、その部屋で一番危険な人物だってことだ。他の誰よりも教わることは多いだろうな」
ガルロンの娘達は寝床にくるまりながら、まだその話を考えているようだった。
「じゃあ、もしシェイ・ヴィズラがまだ生きてたら、コレリアにも来たのかな?」
ティンのお気に入りは何よりも都市戦の話だった。
マリは宇宙船同士の戦いの方が好きだった。
「クアットはどう?絶対あそこでも闘ったはずよ!」
ガルロンは少しばかりの薪を焚き火に投げ込んだ。
「俺が聞いた限りでは、もう何年も戦場で彼女を見かけたって話は無いようだな。彼女の一族についても、どんな噂話も聞こえてこない。もし彼らの行く先を見かけた者が居たとしても、黙っているってことだ」
娘達はこの答えが大いに気に入らなかったようで、ほとんど立ち上がりそうな勢いで矢継ぎ早に質問を投げかけた。
「だってまた戦争が始まってるのに!」
「そこら中で戦いが起きてるんだから!」
「 「 なんで彼女は戻ってこないの? 」 」
父親が静かに二人を一瞥し、娘達は再び寝床に戻った。娘らの背中が地面に着いたのを見届けて、ガルロンは立ち上がるとひとつ腕を伸ばした。
「そうだな、年を取って彼女の腕が鈍ってしまったと言う連中の噂話を聞いたこともある。それで怖がっているから、戻ってこないんだと。もちろん、ごく小さな声でが」
「じゃあ信じてないんだ」とマリが、いかにも若者らしい確信に満ちた声で言った。装備を確かめるため、娘らが寝ている火の側に近づくガルロンを見上げる彼女の目は、炎を照り返してキラキラと輝いていた。
「もし本当にそうだと信じてるなら、大声で言っても何も怖くないはずよ」
「もしそんな話を聞いたら、シェイが戻ってきてやつらを黒こげにしちゃう!」とティンも同意し、強調のために片腕を空に向けて突き上げ、火炎放射器の唸り声を真似して見せた。ガルロンの心中で、彼女のための装備リストに新たなアイテムがまた一つ追加された。
娘達が装備と武器を手の届く範囲にきちんと並べている様子に満足して、ガルロンは彼の寝床へと戻った。
「お前達の言うとおりだな。彼女は待っているんだろう」
「待ってるって、何を?」とティンが聞いた。
「本物の挑戦さ」
彼を見つめる娘二人の顔には、更に説明を求める表情があった。
「シェイ・ヴィズラほどの歴戦の勇士を、俺は他に聞いたことが無い。それに彼女はいつも五体満足な姿で戻ってきた。多分そんな戦いではもう彼女は満足出来ないんだろう」
「だけど今起きてるのは一番大きな戦争なのに!もしこれでも足りないっていうなら、他に何があるの?」とマリが疑わしげに言った。
「想像も付かないな」
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ようやく娘達は征服者マンダロアの話に聞き入った、ように見えた。
だが待てよ、この二人がこの話を前に聞いたことが無いなんてあり得ないな‐ガルロンは娘らが彼の機嫌をとってくれているように感じた。子供が大きくなるのは本当に速いものだ。
ティンは微かに鼻を鳴らして寝入っていたが、マリはまだもぞもぞしていた。新しい薪がパチパチと音を立てる側で、微かに彼女の衣擦れの音が聞こえていた。
「何か気になるのか?」
小さな声でマリは尋ねた。
「父さんのバイス(buy'ce)借りていい?」
ガルロンのヘルメットは荷物のてっぺんに留めてあった。彼はそれを取ると、火の周りを回って娘の側に近づいた。
「さてさて、俺の娘の頭を何が襲うのかな?タカコウモリか?それとも衛星軌道爆撃かな?」
「ううん。戦士はヘルメットを付けたまま眠ることもあるって聞いたから。練習したいの」
ガルロンが静かにマリの頭にヘルメットを被せてやる間も、バイザーの淵にオレンジ色の光が踊っていた。彼女が再び横になると、地面にぶつかってカチリと小さく音がなった。
「父さんは大きな挑戦を探しに行ってないのね、違う?」
彼女の声は、大きすぎるヘルメットの中で反響して奇妙に響いた。
「もう二つも見つけたよ」とガルロンはバイザーに映る自分の影に笑いかけて言った。
マリの手が延びて大きな手を掴んだ。
「お休みなさい」
「お休み」
ガルロンは薪の中から短い枝を選んで、寝床に座り直した。それから脛当てからナイフを取り出すと枝を削り始めた。
夜明けまでに新しい練習用ナイフを娘らに作るためなら、寝る時間が少しくらい無くなっても構わないだろう。
Shadow of the Revanと関係無いかも知れないし、あるかも知れません。